断食と菜食

断食 Upavasa

アナンダ・マルガでは、新月および満月からそれぞれ11日目の日をエカダシ(Ekadashi)と呼び、その日には食事抜き、水抜きの断食を行います。期間は原則としてエカダシ当日の日の出から翌朝の日の出までで、都合によっては前後の日にずらしたり、体調が良くない時には少量の食塩を加えたレモン水を摂ったり、重労働の日はジュースなどで調整することもできます。

エカダシの期間中は、太陽や月の強力な引力によって体内の液体や気体元素が頭部や胸部に引き上げられて身体の正常な働きが阻害され、心理的な混乱の生じやすい状態にあるのを、断食で空の消化器官がもたらす逆の働きによりバランスを取り戻すのです。さらに、断食には体内を浄化する働きがあり、これは消化器官に休息を与えることによって、通常は消化に使われていたエネルギーが、病気や過食などで内臓および組織内に蓄積していた毒素、老廃物の排泄に向けられることによるものです。

断食を始めた当初人によってはわずかに頭痛などの不快感を覚えることもあり、これは体内に蓄積していた毒素を含む血液の一部が脳を通過するために起こるもので、それほど気にする必要はありません。ただし、耐え難いほどの不快感がある場合には、少量の食塩を加えたレモン水を飲んでも構いません。

断食を終えた翌朝は、まず、少量の食塩を加えたレモン水で始まり、そして、胃の中に残留する毒素や老廃物を吸収するために、バナナを少量ずつかまずに飲み込みます。その後、朝食を始めるわけですが、断食の後は、便秘を避けるために果物や野菜、ヨーグルトなど、できるだけ繊維質の食物を摂取するようにしましょう。

断食はサンスクリット語で《ウパワサ(Upavasa)》といわれ、《神を思うこと》を意味します。食を断つということを単に生理的な健康法だけで終らせることなく、空腹感に耐えるだけで一日をやり過ごす代りに、瞑想や読書、その他の日課の中で静かに《無限の意識》に想いを寄せて精神的な生活を試みましょう。そして、断食によって余った食べ物はそれらのものに内在する《無限の意識》への感謝の気持ちを込めてそれらを緊急に必要とする人々や動植物に分けてあげましょう。

菜食

何千年もの昔から、ヨガを行う人たちは菜食が身体、精神、霊性の健康に果たす重要な役割を認識してきました。

近年の医学の研究は先進諸国における肉食の急増が心臓病やガンなどの病気と密接に関連していることを明らかにしています。肉食に起因する病気は、コレステロールなどの脂肪分を完全に消化できず、肉の含む多くの毒素を完全に体外に排出できないこと等と密接な関連があり、肉は非常に酸性の強い食物なので、体質が酸性に傾きやすく、これがいろいろな病気の原因となります。ヨガの菜食メニューは、一般に考えられていることとは裏腹に、人体に必要な全てのビタミン、タンパク質を含んでいます。大豆には割合では牛肉の約二倍のタンパク質が含ま れていて、タンパク質を構成するのに不可欠な8種類の必須アミノ酸は菜食メニューによって十分摂取可能なのです。

ヨガの哲学では、食物は意識に影響をもたらす性質によって三種類に分類されています。人間の意識は常に、タマ、ラジャ、サトワという宇宙創造を司る3つの力によって支配されています。その3つの力の性質の1つは沈滞的を表すタマシク(Ta’masik)です。疲れているときなどに思考力が鈍ったりしますが、同様な感覚は摂取した食物の沈滞的要素(タマグーナ)が意識を支配しているときに起ります。2つ目の性質は活動的を表すラジャシク(Ra’jasik)です。心が落ち着かないときは一つのことに集中できず、じっとしていることすら難しくなりますが、これは活動的要素(ラジャグーナ)が意識を支配していることによるものです。そして3つ目は知覚的を表すサットウィク(Sattvik)です。心が澄んで平穏なとき意識は集中しやすくなりますが、これは知覚的要素(サトワグーナ)が意識を支配していることによるものです。

ヨガの実践を通して古の人たちは健康に良いばかりでなく瞑想に適した平穏で明晰な意識を得られるサットウィクな食物の存在に気づきました。ほとんどの野菜、くだもの、海草、穀物、木ノ実と種、乳製品、純粋酢、はちみつや黒砂糖、香辛料のほとんどがサットウィクな食物の分類に入ります。

ラジャシクなものとは、体には良く、食べ過ぎない限り意識に悪影響を及ぼすことのない食物のことです。コーヒー等のカフェイン飲料、チョコレート、赤とうがらしなどがこれに該当します。極寒の気候では、これらはサットウィクのカテゴリに入ります。沈滞的要素が支配しているタマシクな食物には意識に悪影響を及ぼし、体にも良くないものが少なくありません。肉、魚、卵、アルコール類、タバコなどはタマシクな分類に入り、明晰な意識を必要とする瞑想の妨げになります。この他、仏教の精進料理で五葷に属するタマネギ、長ネギ、ニラ、ニンニク、マッシュルームなども体に害はないものの瞑想には妨げとなるタマシクな食物として知られています。

【著名な菜食主義者】
★アルバート・アインシュタイン★プラトン★レオ・トルストイ★ベンジャミン・フランクリ ン★ソクラテス★リチャード・ワグナー★アイザック・ニュートン★H.G.ウェルズ★ピタゴラス★マハトマ・ガンジー★ラビンドラナート・タゴール★レオナルド・ダ・ビンチ★ジャン・ジャック・ルソー★釈迦★チャールズ・ダーウィン★ジョージ・バーナード・ショー★アルバート・シュヴァイツァー★聖フランシス

断食明けの朝食に・・・ヨーグルト・ 調整豆乳・ バナナ・ レーズン玄米フレーク・ BAKEDオーツ等を混ぜてどうぞ!

ヨガのアサナ、そして瞑想を行う人は、タマシクな食物は極力避け、できるだけサットウィクな食物のみを摂取するように心がけ、ラジャシクな食物もあまり摂取しないことが望ましいといえます。サットウィクな食物であろうと食べ過ぎはタマシクになりますので気を付けましょう。多くの人々が菜食を取り入れる動機となっているものに道徳的な理由もあります。私たちが食物として口にするものはすべて生き物ですが、それらの生き物の意識はそれぞれ異なった発達の段階にあります。例えば、文明人は人間の肉やペットとして飼っている動物の肉は食べません。ババは、私たちが食物を選ぶ際にはできる限り意識の発達していない生物を優先すべきだと強調しています。

「生きていくのに充分な植物性の食糧が得られるにも拘らずあえて動物を殺して食べようという場合には、そのことが正当かどうか何度も考え直すべきである」
-アナンダムルティ師

この他にも食物を選ぶ際には世界の飢餓の問題にも目を向けなければなりません。多くの国々が飢餓に晒されている一方、一部の裕福な国々では膨大な量の食糧が無駄に廃棄されています。食肉生産に掛かる土地やエネルギーはより効率的な穀物の生産に向け、私たちが与えられた地球上の資源をうまく配分して有効に活用すれば、こうした事態はほとんど回避できる問題なのです。菜食〜ベジタリアンライフを試みようと思う人は自分に納得のいく方法で徐々に食生活を変えていくことをお勧めします。菜食とは、決して「やせ我慢をして肉を食べない」ことではなく、「肉を食べないことが自然に感じられる」べきものですから。